研究概要 |
筆者等は精製アルツハイマー病(AD)脳アミロイドから、未知の成分NAC(non-Αβ component of AD amyloid)の存在を見出し、その前駆体蛋白質(NAC precursor:NACP)のcDNAをクローニングした。精製アミロイドからペプチドが分離され、その局在が電顕レベルでアミロイド繊維状に同定されたのはΑβに次いでNACが2番目である。又、相同性検索の結果、NACPは脳特異蛋白であるsynuclein、PNP14等と遺伝子ファミリーを形成する事実が明らかになった。ラットで同定されたsynucleinは、NACPとアミノ酸レベルで95%相同であり相同遺伝子産物と思われる。重視すべきことに、NACP/synucleinが最も発現している部位とAD脳の神経病理の分布部位とは酷似している事実が判明した。又、NACP/synucleinは前シナプスに存在すること等も明らかになった。いずれにせよ、NAC/NACPのAD病理への関与の真の分子的理解には、先ずその生理機能を知る必要がある。戦略的には培養神経細胞を利用し、リコンビナントDNA技法を用いてNACP蛋白の合成を抑制,又は増強し神経的形質の変化を調べることを試みる。細胞は神経研究に最も多用される細胞のひとつであるPC12を用いた。RT-PCRの結果,PC12はNACPファミリーの中のPNP14/β-synucleinを有することが判明した。従って,このタンパク質の解析に必須である特異抗体を新たに作成する必要が生じ,現在抗体を作成中である。 一方,AD脳においてはシナプスが減少していることが明らかにされているが,残存する前シナプス当たりのNACPの量が有意に増大している事実が判明し,AD脳においてNACPには何らかの変化が生じていることが示唆された。
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