我々は精製アルツハイマー病(AD)脳アミロイドから、未知の成分NAC(non-Aβ component of AD amyloid)の存在を見出し、その前駆体蛋白質(NAC precursor : NACP)のcDNAをクローニングした。精製アミロイドからペプチドが分離され、その局在が電顕レベルでアミロイド繊維状に同定されたのはAβに次いでNACが2番目であり、AβとNACとの強固な結合性が示唆され、実際NACとAβ結合してアミロイド繊維を形成することがin vitroで実証された。相同性検索の結果、NACPは脳特異蛋白であるsynuclein、PNP14等と遺伝子ファミリーを形成する事実が明らかになった。重視すべきことは、NACPが最も発現している部位とAD脳の神経病理の分布部位とが酷以する事実である。又、NACPは前シナプスに局在し、我々はNACPがAD脳で異常に発現していることを明らかにした。従って、ADの分子病態生理の理解には、NACPの生理機能を知る必要がある。戦略的には培養神経細胞を利用し、分子生物学的手法を用いてNACP蛋白質の合成を抑制、又は増強し、形質の変化を検討した。細胞は神経研究に最も多用される細胞のひとつであるPC12を用いた。RT-PCRの結果、PC12はNACPファミリーの中のPNP14/β-synucleinを有することが判明した。従って、このタンパク質の解析に必須である特異抗体を新たに作成した。 他方、初期AD脳において既にシナプス数が減少していることが明らかにされていが、我々はこの初期AD脳において、残存するシナプス部位当たりのNACPの量が有意に増大している事実を見出した。従って、AD脳においてNACPの発現、又は分解過程に異変が生じていることが示唆された。又、虚血後脳神経細胞死においてもNACPの異常を見出したことから、神経変性過程にNACPが共通して関与する可能性がある。
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