本プロジェクトの目的は、体循環血液量の各血管床への配分を、体の状況に応じて適切に行なう神経機構の解明である。運動時には筋血流が、安静時には内蔵への血流が増加する。このような調節を行っているのは延髄以上の神経構造に存在するいわゆる心臓血管運動中枢である。この中枢の主要部分である延髄の循環中枢を構成するニューロン群を申請者は同定してきた。そこで具体的には、これまで明らかにされている延髄の循環中枢ニューロン、すなわち吻側の延髄腹外側の網様体に存在する交感神経興奮性網様体脊髄路ニューロン群(RVLMニューロン)がこのような血流配分にどのように関わっているかを明らかにすることを目的とする。 麻酔ウサギの前肢骨格筋、後肢骨格筋、腎臓、耳介皮膚の血流量をレーザードップラーまたは超音波ドップラー血流計で測定しつつ、延髄の吻側腹外側野を興奮性アミノ酸であるグルタメイト、および抑制性アミノ酸であるGABAの微量(10〜30nl)注入実験を行った。中心動脈圧の測定結果から上記の各血管床のコンダクタンスの変化を算出し、各血管床の血管収縮が、延髄の吻側腹外側野のニューロンの刺激または抑制により一律に変化するのか、延髄の吻側腹外側野内に各血管床を支配するニューロンが局在するのか調べた。その結果、それぞれ重なる部分があるものの、内臓血管(腎臓血管)の収縮を支配するニューロンは、骨格筋血管の収縮を支配するニューロンより吻側に存在し、前肢と後肢の骨格筋血管運動を支配するニューロンは同じ部位にあり、耳介の皮膚血管の収縮を支配するニューロンは、前2者より内側に存在することが判明した。脊髄の体節に依存して、すなわち、体の部位に依存して、これら血管運動を支配するニューロンが局在するのではなく、運動時に拡張する骨格筋血管、安静時に拡張する内蔵血管、運動時及び体温上昇時に拡張する皮膚血管という機能を異にした血管運動調節ニューロンが延髄吻側腹外側野に局在すると結論された。
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