この研究は、Caチャネル活動がcell-free系で消失する(rundown)という現象の背景にCaチャネルの細胞内調節因子が存在するという作業仮説のもとに、同調節因子の検索と調節機構の解明を目指すものである。これまでに、Caチャネル調節因子候補として、内因性プロテアーゼ阻害物質カルパスタチンとATPとが浮かび上がっている。そこで、(1)心筋Caチャネルの内在性活性化因子とカルパスタチンが同一であるかどうか、(2)Caチャネル活性化因子の作用においてATPがどのように関与するのか、(3)心筋Caチャネルの活性維持と蛋白リン酸化との関係を明らかにすることを目的としてモルモット単一心筋細胞を用いたパッチクランプの研究を行った。 本研究における知見は以下の通りである。(1)粗製カルパスタチン、精製カルパスタチン、および市販のプロテアーゼインヒビターのCaチャネル活動回復効果を比較検討した結果、精製カルパスタチンや市販品の効果は粗製品の10-30%の効力であった。このことから、Caチャネル活動に関与する他の因子の存在が示唆される。(2)前記の因子を検索するため、牛心筋抽出液のゲル濾過で分画し、カルパスタチン分画に他の分画を加えたもののCaチャネル活動に対する効果を系統的に検索した。その結果、高分子量分画(H分画)にカルパスタチン分画の作用を増強させる効果があると判明した。 以上の結果から、心筋細胞質にはCaチャネル活動を調節する物質が複数存在すると思われる。一つは、カルパスタチンと類似の蛋白であり、もう一つはそれより高分子の物質である。この物質の同定とチャネルに対する作用機構を解明することは、Caチャネルの調節機構を理解する上で重要であると考えられる。
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