本研究の目的は、骨盤内の副交感神経節が交感・副交感神経系の拮抗的情報処理の場である可能性を電気生理学的に検証するものであった。本補助金等の助成によりネコ・ウサギの骨盤内副交感神経節内の情報伝達調節機械のうち二つの同シナプス性促通と一つの異シナプス性抑制を解析することができた。 同シナプス性促通:1.初年度に続きウサギ膀胱神経節に賦与されたhigh-pass-filterの機序を解析した。その結果、プリン性low-cut-filter以外にカルシウムに依存した機構が存在することが判明した。 2.ネコの結腸神経節に於いて骨盤神経を刺激すると節細胞のマスカリン受容体を介してdepolarizing membrane oscillation(DMO)が作動状態となり自発性発火が始まった。 異シナプス性抑制:3.同じく結腸神経節に於いて下腹神経を刺激すると節細胞のα_2受容体を介してDMOが休止状態となり自発性発火が止まった。 High-pass-filterは膀胱を支配するニコチン性シナプスの特性で、ミリ秒から秒の単位で起こる速い促通現象である。一方、節細胞の振動子(DMO)の作動状態の調節は秒から分の単位で起こる緩徐な促通・抑制現象である。またhigh-pass-filterには臓器特異性があり、振動子の調節には種特異性がある。 これらの結果をネコ膀胱神経節に当てはめるとhigh-pass-filterは仙髄副交感神経遠心路に賦与された不用意な尿失禁を防ぐ安全装置の一つとして機能している。一方、DMOの増強は一旦始まった排尿の維持に重要な役割を担うと考えられる。今後は、更に比較生理学的検討を通じヒトの骨盤内自律神経系の情報処理を解明したい。
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