麻酔、人工呼吸下のラットを用いて坐骨神経血流のレーザードップラー法で記録し、坐骨神経血流調節について次の二点を明らかにした。 1.坐骨神経血流調節に関与する神経線維の種類および起始部を同定した。第11胸髄〜第1腰髄前根刺激により、坐骨神経血流は一過性の血圧上昇反応に伴い増加したのち減少した。血流減少反応は、ノルアドレナリン作動性交感神経による血管収縮の結果であった。第6腰髄前根刺激により、血圧反応とは関係なく座骨神経血流は増加した。この血流増加反応は、コリン作動性ムスカリン受容体遮断薬のアトロピン静脈内投与により消失した。第3腰髄〜第1仙髄後根刺激により、血圧変化を伴わずに坐骨神経血流は増加した。この血流増加反応は、CGRP受容体拮抗薬の局所投与により消失した。以上の結果から、坐骨神経血流は、第11胸髄〜第1腰髄の前根から出る交感神経血管収縮神経、第6腰髄の前根から出る副交感神経血管拡張神経、第3腰髄〜第1仙髄の後根に入るCGPR含有求心性神経血管拡張神経、により支配されていることが分かった。 2.皮膚や筋への体性感覚刺激が、軸索反射性機序により坐骨神経局所血流を調節することを明らかにした。ラットの腰仙髄に入出力する後根および前根を切断して、中枢神経系を介する反応が起こらない状態で実験を行った。大腿内側部の皮膚に分布する伏在神経の切断中枢端に電気刺激を加えると、血圧の変化を伴わずに坐骨神経血流が増加した。この血流増加反応はCGRP受容体拮抗薬の局所投与により消失した。このことから、坐骨神経血管支配神経の中に含まれるCGRP含有求心性神経は、伏在神経にも軸索側枝を伸ばし、この求心性神経の軸索反射性調節により、坐骨神経血管を拡張させて坐骨神経血流を増加させることが分かった。
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