近年、人医領域における術後感染等における日和見感染の起因菌として、MRSA(methicillin resistant Staphylococcus aureus)感染が問題になっている。私は、病院と動物実験施設が同一敷地内に併設されている事、しかも動物実験を行う研究者が病院内の入院患者と実験動物の両者と頻繁に接触している事実から、実験動物領域でもMRSA汚染が起きていないかを検討する事とした。前年度は各種実験動物、ヒト(飼育管理者)及び環境からMRSAを分離したが全例陰性であった。そこで本年度は、まず初めに実験動物由来SA(Staphylococcus aureus)についてオキサシリンを用いてMRSAの作出を試み、次にヒトの病巣由来のMRSA株を用いて、動物相互間、周辺環境、ヒトへの伝搬、さらに消毒薬の効果について検討した。 その結果、実験動物(マウス、ラット)由来のSA株について、オキサシリンを用いてのMRSAの作出はできなかった。そこで、ヒトの病巣由来のMRSA株(MR170)を用いて以下の感染実験をビニールアイソレータ内で行った。まず、MR170汚染マウスとSA陰性マウスを同居させたところ本菌の動物間での伝搬が成立し、さらに陽性マウスから生まれた仔にも伝搬が認められた。また、これらの陽性マウスを取り扱った手袋及び周辺環境にも汚染は拡大した。これらから分離されたMRSA株の化学療法剤に対するMICはもともとのMR170株とほぼ同じで、感受性に変化は認められなかった。次に、試験管内でヒト由来のSA株について各種消毒薬の効果を検討した結果、アルコール類、第4級アンモニウム塩、フェノール代用物は著しい殺菌効果が認められた事から、これらの消毒薬はMRSAに対しても有効と思われた。 これまでの成績により、現在のところ実験動物にはMRSA汚染が認められない事、実験動物由来のSA株からは試験管内でMRSAを作出できない事、実験的には動物相互間及び周辺環境にMRSA汚染が起きる事、ヒト由来SA株についてはアルコール等の消毒薬が有効である事が明らかとなった。
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