本研究では、医用生体材料としての潜在的可能性を持つN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)から成るハイドロゲルの生体毒性を、詳細な動物実験から検討することを目的とする。昨年度の短期動物実験から、NIPAAmゲルはほとんど生体毒性を示さないことが分かっているが、研究の性格から充分な再現性を持った実験データを取得することが必要となる。そこで、本年度も、薬物投与後の短期間観察(10日程度)による急性毒性の検討を行なった。具体的には、LD_<50>値以下のモノマー及びモノマーと等モル量(残基濃度)のゲル試料を皮下注射により投与し、行動リズム(脳神経障害の検討)、生化学検査(肝・腎機能及び一般代謝機能の検討)、体重と食物摂取量との関係(成長因子への影響)を調べた。実験期間は10日程度としたが、生化学検査には一匹のラットの全血液を必要とするので、この実験を3回繰り返して行なった。その結果、NPAAmモノマーは比較滴強い毒性(神経系の代謝阻害)が認められたが、ポリマー(ゲル)にはこの影響が全く認められなかった。ただし、試料の投与後2〜3日の間の投与部位の炎症が認められたが、これはNIPAAmゲルによるものでは無く、皮下注射に伴う炎症反応で、投与6日後にはほぼ完全に治癒することがわかった。これらの結果は、専門誌(Naturwissenschaften)投稿する予定で、現在「まとめ」を行なっている。 以上の様に、本研究の結果は、医用生体材料としてのNIPAAmゲルの潜在的可能性を支持するものであったが、今後は年単位にわたる動物実験(長期実験)を行ない、発癌性など詳細な項目にわたり、安全性を調べる必要がある。
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