人工生体材料において、生体組織と直接接触・相互作用する材料表面の制御は極めて重要である。多相高分子は接触媒体等の表面環境と成分鎖との相互作用に基づき表面組成・構造を変化させる。本研究では、そのような環境応答挙動と分子の一次構造および分子集合体特性との相関を明らかにし、かつそのような環境応答挙動を示すモデル高分子の合成法の確立により環境応答性高分子の分子設計を行うことを目的とした。得られた結果は以下の通りである。 1.テレケリック高分子やマクロモノマーを用いた合成手法により、生体親和性に優れたポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコールをはじめ、表面自由エネルギーや分子集合体特性の異なった種々の成分鎖を組み込んだ、一次構造の明確なグラフト共重合体や網目高分子の合成法を確立した。 2.多相高分子における成分鎖の配列様式と表面自由エネルギーをパラメーターとし、表面組成・構造の環境応答性を明らかにした。空気中での表面形成においては、表面エネルギーの最も小さい成分鎖が表面を覆っているが、環境を水中に変えることにより迅速に表面組成の交替が行われ、かつそれは可逆的であることが示された。分子の一次構造との関連では、グラフト共重合体の方がブロック共重合体より顕著な環境応答を行った。さらにブロック共重合体を枝鎖とする3成分グラフト共重合体においては表面が3層よりなる積層構造を形成することが明らかにされた。 3.結晶状態およびガラス状態のような分子集合体特性と表面の環境応答挙動が明らかにされた。すなわちバルク中でガラス状態であっても表面においては環境応答し得るが、結晶状態では応答しないまたは応答速度が遅いことが示された。また、ガラス状態における応答知見は表面におけるガラス転移に関する基礎的課題への情報をも与える。 以上のように、本研究の成果は環境応答を制御し得る生体機能材料の分子設計に少なからず寄与し得ると考えられる。
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