本研究では、感染を効果的に抑制し創傷治癒を促進する新しい治療法の確立を目指して抗菌剤含有創傷被覆材と同種培養真皮を併用する方法の有効性を動物実験ならびに予備臨床試験において検討した。抗菌剤含有創傷被覆材はポリウレタン膜に抗菌剤であるスルファジアジン銀を含有させ、この片面に吸水不織布を貼付したものである。本研究の一貫として、この被覆材に関する技術を三菱化学株式会社ならびにコーテック株式会社に提供して企業化を推進した。10病院における多施設臨床試験において熱傷ならびに褥瘡を対象とした130症例において有効性が確認され、平成7年5月に厚生省に製造認可を申請した。平成8年4月に製造認可される予定である。一方、同種培養真皮はウイルス感染陰性の他人の皮膚から採取した線維芽細胞を大量培養して、これをコラーゲンマトリックスに播種して培養することにより作製するものである。この技術は、メニコン株式会社に提供して企業化を推進している。細胞組み込み型の医療用具は、これまでに例がないため厚生省に製造認可を申請するための安全基準の確立にさらに数年を要する見込みである。 創面に同種培養真皮を適用し、その上に抗菌剤含有創傷被覆材を適用することにより、被覆材からの抗菌剤の放出により感染を防止し、同種培養真皮に含まれる線維芽細胞から産生放出される種々の細胞増殖因子により創傷治癒を促進する次世代の治療法が可能となる。4病院において熱傷ならびに褥瘡を対象に65症例において、この新しい治療法を施行し、画期的な治療法であることを確認することができた。大量製造した培養真皮を凍結保存しておき、必要時に解凍して臨床使用することがより実用的であり、冷凍保存技術の確立を推進してきた。今後、冷凍保存した培養真皮を常時臨床に提供するための培養皮膚バンクの設立に向けて本研究をさらに展開する予定である。
|