研究概要 |
本研究では,ラフ(rough:がらがらした声)とボイストレマ(voice tremor:ふるえのある声)の2種類の病的音声の基本周波数(以後、F_0と呼ぶ)のゆらぎに関して,音響物理的特徴と聴覚心理的印象の両方の観点より,両者間の対応関係を明かにし,臨床検査に役立つ基礎資料を提供(平成6年度)する。又,応用として,喉頭科医(耳鼻科の臨床医)のための聴覚印象トレーニング用の「聴取診断支援のためのシミュレータ」の開発(平成7年度)や,従来喉頭科医の主観評価に基づいていた音声診断とは代わる「病的音声の自動診断装置」の開発(平成7年度)を計画している。当初の実施計画はほぼ順調であり,平成6年度の実施概要は以下の通りである。 2種類の病的音声のF_0のゆらぎの特徴の差異に関して,まず,F_0のゆらぎの時系列に対してパワースペクトルを計算し,ゆらぎのスペクトルからF_0のゆらぎの音響物理的特徴を定量的に調べた。次に,ホルマント型音声合成器でF_0にゆらぎを付加した合成音を作成し、その合成音を聴取した。ただし、合成音のF_0の音源生成モデルには音響分析の結果,平成6年度は“Slope Peak"モデルを提案し,これらのモデルを用いることによりラフとボイストレマのそれぞれの聴覚印象を明確に区別できる病的音声を再生可能にした。なおこの場合,モデルに与える音源のゆらぎのパラメータの設定条件が多岐に渡っているので,パラメータを系統的に変化させた。その結果,音源のゆらぎの音響物理的刺激空間と病的音声の聴覚印象との間における一般性のある因果関係に関して新しい知見を得た。その成果を論文として投稿し,掲載がすでに決定している。平成7年度は,これらの結果に基づき当初の予定通り、トレーニング用の「聴取診断支援のためのシミュレータ」や従来の音声診断に代わる「病的音声自動診断装置」の開発を行う。
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