マックス・ウェーバーのエ-トス分析における重要な概念(「神義論(Theodizee)」・「心意倫理(Gesinnungsethik)・「同胞愛(Bruderlichkeit)」)を軸として日本の宗教・倫理思想について考察してきた。 日本思想における「神義論」の所在を探索する試みにおいては、個々人の善悪と幸不幸との連関の説明のいくつかのパターンを見るとともに、血縁などで連帯する集団の中ではその連帯意識のゆえに個々人の運命への問いは浮上しないことを見た(主な考察対象:『日本霊異記』・本居宣長『直毘霊』・平田篤胤『霊能真柱』・『論語』・伊藤仁斎『童子問』)。 日本思想における「心意倫理」の所在を探索する試みにおいては、武士道のエ-トスの中では、戦闘者としての自尊心、主君への慕情・忠誠心、社会秩序を保全しようとする「職分」意識、これらが入り組んだ形で複合していること、また、能動的行為を促す機縁として個的な絆への忠誠心があり、さらにその根底には他者との心情の通じ合いを自明視する人間観が脈打っていること、について考察した(主な考察対象:『葉隠』)。 日本思想における「同胞愛」の様相を探索する試みにおいては、社会秩序の保全を支える「恥の文化」と、むしろそれを相対化・超克するような「無我」・「誠」の境地との並存について考えた(主な考察対象:ベネディクト『菊と刀』・西田幾多郎『善の研究』)。後者の内発的な連帯感こそ、個々の人間に「神義論」を取り沙汰せずにすませているものであり、かつまた、「心意倫理」的な能動的行為をその背景において保障しているものでもある。 以上の考察は、平成7年東京大学大学院人文科学研究科提出予定の博士論文において発表するつもりである。
|