研究概要 |
サーカディアンリズムの光サイクルへの同調は,光情報が網膜から網膜視床下部路RHTを介してサーカディアン振動体である視交叉上核SCNへ伝えられることにより生じる.その伝達物質はglutamateなどの興奮性アミノ酸EAAで,その受容体EAA receptorのNMDA型であるとされている.本研究では,NMDA receptorがSCNにおいて実際に存在し光情報受容体としての機能をもつことを確かめる目的から,SCNにおけるNMDA receptor subunit mRNAの解剖学的局在,SCNにおける網膜投射領域,および光によるFos蛋白発現領域の神経解剖学的比較をin situ hybridization法および免疫組織化学法により検討した.以下に現在まで得られた結果をまとめる. 1.in situ hybridization法によりマウスSCNにNMDA receptor subunitのうちε3 subunitのmRNAが特異的に発現した.発現領域は,SCN吻側部・尾側部では全体に,中央部では外側および背側のSCN境界部に沿った領域に限られていた. 2.神経tracerであるCholera toxin Bを眼球内に注入し,SCNにおける網膜からの投射領域を免疫組織化学的に調べたところ,SCN吻側部・尾側部では全体に,中央部では外側および背側に分布し,ε3 subunit mRNAの分布とほぼ一致した. 3.60分の光照射によりSCN細胞からFos蛋白が発現した.発現はSCNの吻側部・中央部・尾側部とも全体の細胞で見られたが,それぞれ腹内側部に最も強い反応が得られ,特に中央部ではε3および網膜投射領域以外の部位でも発現が見られた.しかし,NMDA receptorのantagonistであるMK-801を光照射前に投与すると,Fosの発現が制御され,特に中央部の背側部の細胞で抑制が見られた. 以上の結果から,マウスSCNにおけるNMDA receptorのε3 subunit mRNAは網膜からの投射領域に分布し,さらにそれらの領域の細胞において光によるFos蛋白発現に関与することが示唆された.現在この関係をさらに直接的に確かめるために,非放射性物質を用いたin situ hybridization法による同一切片上での多重染色を試みている. 以上の他にゴールデンハムスターを用いて,そのSCNにおける光によるFos発現にsubstance P receptorが関与することを,そのantagonistを用いて確かめた.
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