本研究は、音響特性が複雑に変化する情報マスキングを用いて、聴覚的注意の機能を検討した。刺激は周波数の異なる複数の純音(2〜6個)が連続呈示されるパターンであり、その中の1個がターゲット音、その他の音(マスク音)が情報マスキングを構成する。ターゲット音とマスク音の呈示時間は40ミリセカンドで、各音の呈示順序は毎試行ランダムに変化する。ターゲット音に被験者の注意を誘導するために、ターゲット音の周波数は固定したまま、マスク音の周波数を変化させた。実験では2区間強制選択課題を用い、ターゲット音の弁別閾を測定した。 現時点では3実験が終了した。実験結果は次の通りである。 1.ターゲット音とマスク音の周波数が異なるほど、弁別閾は低下する(実験1)。 2.マスク音の数が多くなるほど、弁別閾は上昇する(実験2)。 3.1.と2.の効果はターゲット音の周波数によって異なる(実験3)。 以上の結果は、ターゲット音とマスク音の周波数分離によって聴覚的注意がターゲット音に誘導され、弁別閾が低下する(感受性が向上する)が、その聴覚的注意の効果はマスク音の個数やターゲット音の周波数に依存することを示している。 現在、第4実験としてマスク音とターゲット音の呈示時間を20〜80ミリセカンドでランダムに変化させ、呈示時間の変化によって聴覚的注意の効果が変化するか検討している。 第5実験としては、長期練習による知覚的学習が聴覚的注意に及ぼす効果を検討する予定である。
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