1.聴覚短期記憶における干渉効果の研究 被験者数が不足しているため、確実な結果はまだ得られていない。現在の時点で見られる傾向について述べる。(1)挿入音が純音であっても数詞音声であっても、テスト音との高さが近いほど、高さの記憶に対する干渉効果が大きい。(2)この際、数詞音声は音声としての意味も処理されている。今後は被験者数を増やして実験を行う。 2.時間伸長錯覚の研究 当初目的とは別の研究も行った。純音の長さの知覚についての研究で、佐々木他(1992)は基準音の直前に6dB強い先行音をつけ加えると、基準音の長さが最大約30ms伸長して知覚されることを報告した。彼らはこの現象を基準音の開始部に対する先行音からのマスキングによるものと考えた。上田、大朏(1995)はこの研究を発展させ、(1)佐々木他の実験に再現性があること、(2)先行音の音圧を基準音よりも6dB弱くしても錯覚量に有意差が見られないこと、すなわちマスキングのみでは錯覚が説明できないことを明らかにした。 3.ダイコティックに呈示された音階の錯覚の研究 さらに、Deutsch(1975)の報告した音階の錯覚について研究を行った。これはそれぞれ一音ごとに左右の耳に振り分けた上昇音階と下降音階とを同時に(互いに反対耳に)呈示したときに生じる錯覚を調べるものである。その結果、(1)Deutschの報告したものより多様な錯覚が報告されること、(2)刺激呈示の速度を低下させると全体に錯覚が生じにくくなることが明らかになった。
|