脳の健常老化(生理的老化)にともない、記憶や認知能力がどのように変化するかを検討する目的で、要素的な認知機能を広く評価する「高次脳機能検査(老研版)」を約10年前に受けた当時の健常老人(当時50〜80歳代の120名)を対象に追跡調査を行った。10年前のデータによれば、50歳代と60歳代以降との間に成績の差がみられたので、今回は50〜60歳代の被験者を中心に追跡を行った。当時の50〜69歳61名中、住所が明らかだった40名に研究協力の依頼文書を送ったところ、転居先不明が5名、死亡1名、辞退2名、回答なし18名で、14名(64〜70歳の6名と71〜80歳の8名)が研究協力に承諾してくれた。14名はいずれも地域に生活し、4名は疾患(難聴、心臓病、頚椎骨化症、前立腺肥大症)を経験していたが、日常生活に大きな支障を来たすほどではなかった。14名と新規2名に対し、日常生活に関する質問と高次脳機能検査を行ったところ、今回の高次脳機能検査の成績はいずれも健常範囲であり、健常群の得点分布(10年前の老人90名のデータ)から2標準偏差以上低下する検査はほとんどなかった。一方、10年前における得点の変化は、14人中13人にみられ、1標準偏差程度の低下は、各人に多かれ少なかれ認められたが(20の下位検査中、5検査以上低下したものは4名、1〜3検査が9名)、低下が2標準偏差以上を超えるものは少なかった。また、20の下位検査の中では、語想起(音)、語想起(意味)、触認知の3検査に低下を示す例が多く(14人中5人)、横断データの結果に一部共通する結果だった。今後も追跡を続けデータ数を増やし、年代別の縦断変化を分析する予定である。
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