研究概要 |
本研究は高齢者の社会的空間の広がりを測定し,空間の広がりと適応の関係を調べる目的で行われた.調査対象者は,岩見沢市と三笠市に住む65歳以上の高齢者である。これまでの両市を対象とした調査結果を考慮し,岩見沢市では公務員経験者を,三笠市では博物館協力会化石部会のメンバーを中心とした.調査項目は,(1)被調査者の属性(年齢,性別,就業状態等),(2)被調査者のネットワーク(社会的な活動の状況,付き合いの程度,メンタルディスタンス等),および(3)適応の尺度(改訂版PGCモラール・スケール,改訂版UCLA孤独感尺度等)からなっている. 今回の結果で特徴的だったのは,三笠市の博物館協力会のメンバーでモラール得点が高く,孤独感が低い傾向がみられたことである.三笠市立博物館は自然科学部門と人文科学部門からなっており,特に自然科学部門には世界的に有名なアンモナイトやエゾミカサリュウなどの化石が集められている.これらの化石は博物館協力会化石部会のサポートなしで展示することはできず,会のメンバーの中には新種を発見するなど研究熱心な人も数多くいる.博物館協力会化石部会は唐松愛石会,三笠化石研究保存会,北海道化石会の3つからなっており,会員の職業は公務員,旧国鉄職員,炭坑関係者とさまざまである.このような化石を通じた仲間との付き合いによって社会的な空間が広がり,上述のような結果が得られたと考えられる.今後はさらに,さまざまな属性の高齢者との比較が必要となろう.また,被調査者のネットワーク測定に用いたメンタルディスタンスでは,岩見沢市の被調査者に「できない」という回答がみられた.これまでも「難しい」という回答はあったが回答は可能であった.回答方法について今一度検討が必要となった.
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