研究概要 |
「暗黙の性格理論」という、豊富な日常経験に支えられた概念領域における属性関係を表現するモデルとして、ファジィ認知地図(Kosko,1986,1992)と、そのニューラルネットワークによるシミュレーションの可能性を探求する研究を継続した。今年度の研究(日本心理学会第58回大会にて発表)では、ある2つの性格特性を与えられた時に、別の性格特性について推論する課題(ある人が「無分別」でかつ「軽率」であることが分かったことにより、その人が「生意気」である可能性高まるか低まるか)を取り上げ、質問紙調査によって得たデータを再現するモデルの構築を試みた。計算モデルは、ファジィ関係行列と活性強度ベクトルの乗算を繰り返す版(以下、行列乗算モデル)と、Rumelhart&-McClelland(1981)の相互性化・競合モデルの伝播規則を採用した版の二種類。ファジィ関係行列は以前の研究で得たものを用い、この単一条件課題のデータから、今回の複数条件推論課題への転移を、シミュレーションでどれだけ再現し得るかを検討した。その結果、相互活性化・競合モデルの同性への評定に関しては、評定データにおける符号と性格特性ユニットの活性水準の符号に関し93%(異性間では78%)の一致を見た。本研究の結果は、ニューラルネットワークによる分散的でダイナミッスな知識表現を導入することにより、推論スキーマや説明による学習といったトップダウン的な推論方略を前提としなくても、対人認知に代表されるような複雑な推論過程のかなりの部分を再現できる可能性があることを示している。なお、並行して対人認知において用いられる性格特性語カテゴリーにおける階層構造についての研究を行った(日本教育心理学会第36回大会にて発表)。現在、このデータを再現し得るニューラルネットワーク・モデルの構築を行っている。
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