本研究は、中国唐代における文学と絵画芸術の関係の在り方を解明することを目的とし、次の三つの項目を基軸としてすすめられた。 1.文学者と画家との交住、ならびに文学者の絵画受容の具体相の調査。 2.文学者の絵画芸術観とそれに関連する美学の検討。 3.絵画芸術が文学作品に与えた影響とそれに伴う文学観の変容の解明。 上記1.2.3の研究に関して、『全唐詩』所収の試作品をはじめ、唐代文人の試作品を幅広く調査・検討することをまず第一に行なった。あわせて、各地の研究施設、図書館に赴き、関連する文学、絵画関係の資料の収集、調査を行なった。その結果、少なからぬ知見を得ることができたが、特に本研究独自の知見と言えるのは次のような点であろう。 1.唐代中期以降、絵画が遠い距離を隔てた人物どおしの間で盛んにとりかわされるようになり、そのことによって、時空を越えた映像伝達のメディアとして認知されるようになったこと。 2.上記の傾向と並行して、試作品もまた遠い距離を隔てて交換されることが増加し、そのなかから詩もまた絵画と同質の時空を越えた映像伝達メディアとして認知されるようになったこと。 3.上記.1.2の傾向が定着するなかで、詩と絵画の間に、映像(イメージ)を表象(再現)する芸術としての同質性が見出され、それが、宋代に確立する「計画一致」の芸術観へとつながってゆくこと。以上の成果は、平成七年度中に発表する準備をすすめている。
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