研究概要 |
従来、文と名詞句の両方の性格を持つと言われてきた動詞的動名詞であるが、その中でも本研究で取り上げたACC-INGはとりわけ文的性格が強いと考えられているものである。文的性格が強いとはいえ、格が付与される位置にしか現れないなど名詞句の性格も見られ、それ故、統率束縛理論及び限定詞句の仮説のもとでは、文的性格を持つ句範時(IP)を名詞的性格を持つ限定詞句(DP)が支配するというハイブリッド的分析が一般に行われてきた。 拙論(博士論文)における分析も例外ではなく,DPがIPを支配する構造を提案したが、動名詞の意味上の主語を所有格で表すPOSS-INGとは違い、ACC-INGが持つほとんど唯一の名詞的性格は、格付与位置にしか現れないという事実だけであり、仮にこの事実をDPを仮定することなしに導きだすことができれば、ACC-INGには文的性格を持つ範時のみを仮定するだけで良いことになり、POSS-INGとの対比も自然に説明されることになる。またこれは、最近の「裸句構造」の理論における主要部の概念の観点からも好ましいと言えよう。 本研究は、ACC-INGをいわゆる例外的格付与構文(ECM)の一種と考え、極小主義理論の枠組みを用いてACC-INGとECMとの違いを説明しようとしたものである。特に例外的受動態が可能であるかどうかという点に着目し、例外的受動態がECMでは可能であるのに対して,ACC-INGでは不可能なのは、派生の過程で形成される連鎖を構成する要素(痕跡)の素性指定が異なっており、また、その違いは、ACC-INGとECMのTenseの語彙性(+Lexical)に違いがあり、連鎖の一様性の条件から原理的に説明できると結論した。この分析の帰結として、例外的受動態が可能ないわゆる知覚動詞構文との構造的相違についての研究の必要性が生じてくるが、これについては今後の研究の課題としたい。
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