イジドール・デュカス(ロ-トレアモン伯爵)の文学的営為全体を、他の作家・詩人の先行作品の書き換え・模倣として捉え直す作業の枢要な一部として、詩人の第二の(そして最後の)作品、『ポエジ-』における『剽窃』を詳細に読み解き、その書き換えのメカニスムを、先行研究の成果もまじえながら跡付けた。とりわけ、公然とかかげられた『ポエジ-』の目的が「ロマン派糾弾」であるのにもかかわらず、書き換えの対象として取り上げられたテクストのうちの大部分が、パスカル、ヴォ-ヴナルグという17・18世紀のモラリストの手になるものであることに注目し、デュカスが創作にあたって実際に手にしていた各版(コンドルセ版『パンセ』、フュルヌ版『考察と箴言』)にあたり、両者に共通してみられるヴォルテ-ルによる批判的注釈(『パンセ』については、数例の書き換えをも含む)、およびヴォ-ヴナルグによるパスカルの文体模倣の試みといった、複数のテクストを媒介させる働きが、剽窃者たらんとした19世紀半ばのこの詩人を決定的な仕方で触発したのではないかという仮説を提示した。 19世紀の中等教育については、大枠となる制度上の事項については文献に既にあたっているものの、レトリック学級での具体的なカリキュラムその他についての文献は未だ入手できずにいる。また、本計画において主要な試みになるはずであったテクストのコンピューターによる読取りと解析は、先の震災でスキャナーが被害を受け、先般やっと修理を経て返ってきたため、残念ながらはかばかしく進んでいるとはとても言いがたい。機器の有効な操作方法も含め、今後の最重要の課題として残されている。
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