本研究は、集団的労使関係の機能低下という状況が、裁判所による個別契約や就業規則の解釈においてどのような影響をもたらしているのかを問うものである。この問題設定に基づき、当初の研究計画に従い、まず、今日さかんに指摘される集団的労使関係の機能低下という事実の確認を行った。この点、様々な意見があるが、産業構造の変化等に基づく組織率の絶対的低下を前提にすると、否定できない事実と結論した。また、京都に所在する中小企業に対し聞取り調査を行ったが、労使ともに労組という形態を嫌い、社員会へと組織変更した例も見られた。もちろん、少数のサンプルに対する個別調査に過ぎないため、ここから全体の傾向は判断できないが、中小企業に象徴的な事例のように思われる。今後、集団的労使関係が機能する条件を解明する必要を感じた。 第二の作業として判例分析を行った。まず、就業規則の変更事例を対象に労組が存する場合と存しない場合とを区別して分析を行った。しかし、多くのケースでは労組が存在しており、有意な区別を行うことが容易ではなかった。労働事件を裁判所で争うには、労組が背後にいなければなかなか難しいことを考えると、当然の結論かもしれない。そこで、配転・出向のケースについて分析を行うこととし、現在その作業の途中である。 今年度は、以上の作業と併行して、ドイツ・オーストリアでの在外研究の成果に基づき、本研究に関連する外国法研究も行った。とくに、裁判所による契約コントロールの問題を視野に入れつつ、その具体的問題の一つとして企業年金をめぐる問題を検討した。
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