本研究では、韓国で急速な経済成長が始まる一方で、日本では繊維不況が生じる時期におこった韓国における輸出自由地域の形成と日本の繊維産業移転を調査した。調査は、基本的には各種文書資料の収集分析と面接調査によった。 まず、当該年代における日本の繊維産業の移転状況、日本及び韓国の繊維産業の生産量の変遷を把握すべく資料を収集した。特に、日本から韓国に移転した企業(具体的には大阪府下の企業)の動向について追い、日本の中央政府・地方政府(具体的には大阪府)及び韓国政府から移転に際してコスト負担やサンクションがなかったかを調査した。 第2に、日韓中央政府間で焦点となっていた日韓基本条約締結の際の対日請求権に基づく援助・借款がどのように韓国側で使用されたかを調べた。この資金の多くは基礎的産業育成のための投資にまわっていたことが明らかになったが、それは大まかな概略だけであり、必要となるデータを十分とるためには日本国内では限界があった。 第3に、日本から韓国への移転をおこなった企業を調べ、日本及び韓国の中央・地方政府が移転に際しどのような対応をとったのかを当時の企業トップに聞き取り調査をしようとしたが、実際には当時の関係者を捕まえることは困難で、通信会社の記者にインタヴューするにとどまった。 最後に、企業の移転元である日本の地方政府が、移転に際し失業等のコストを埋めるための対応に関する資料を収集した。 全体として、当該年度中は関係資料の収集に終始し、その分析が不十分であった。また、韓国側の資料を収集するためには日本国内では限界があり、韓国での収集をおこなわねばならない。これらがこの研究をまとめる上で今後の課題として残っている。
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