石川滋教授が座長をつとめられるアジア経済研究所の「開発経済学の再検討」研究会に定期的に参加し、また海外経済協力基金・世界銀行・経企庁などの援助関係省庁と不定期に意見交換やセミナーを行って、研究課題に関するわが国の開発援助界の見解を十分に知ることができた。それらを総合する形で問題のありかがより明瞭になったといえる。この成果はまず2つの論文に提示した(発表論文参照)。さらに、今年度および過去数年の研究をまとめた書物を有斐閣から出版する予定である(図書参照)。この原稿は8割がた完成しており、まもなく来年度中に脱稿・出版できるはずである。 今年度に新たに明確になった理論的課題としては、体制移行における「制度的補完性」の概念、ロシアと中国のパフォーマンスの差をめぐる論争、新旧システムの相互作用・翻訳的適応としての市場導入という視点などが特に注目される。また1993年に発表され筆者もその作成に関わった世銀報告『東アジアの奇跡』の理解・解釈も研究者の間で深まったと言える。 また収束しつつあるわが国の開発経済学界の見解を英語で発信することも重要であることから、来年度以降の中期課題として、ワシントンの開発機関(世界銀行・海外開発審議会など)と交流をもち、最終目標としてこれらの見解(自分および他の研究者の論文)を将来翻訳して出版することを考えている。これは今年度の研究を基礎に発展させていくものである。
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