本研究は、欧州通貨危機の発生メカニズムについて理論的、実証的に分析を行った。 理論的分析では、ドイツのインフレ抑制のレピュテーション(名声)を輸入しようという、従来インフレ志向であった他の欧州諸国のインセンティブが固定相場制の一種である為替バンド制の維持にどのように寄与したかを考察した。ドイツ以外の欧州諸国の通貨当局がインフレを抑制しようとして、ドイツからインフレ抑制のレピュテーションを輸入するためには、固定相場制を維持することによって低インフレを実現しなければならない。そして、それらの通貨当局がインフレ抑制を重点的にその目標とする限りは、固定相場制が維持される。さらに通貨調整に関わる費用も固定相場制維持を通じてインフレ抑制に寄与する。しかだって、通貨当局の目標におけるインフレ抑制や通貨調整費用へのウェイト付けが低下すると、固定相場制を維持するインセンティブが低下する。 実証分析においては、イタリア、イギリス、フランス、ドイツの金融政策の政策反応関数を計測することによって、欧州通貨危機の前後においてこれらの国々の中央銀行の政策反応関数が構造的に変化したのか否かを分析している。そこでは、貨幣需要、貨幣供給及び政策反応関数の構造体系から回帰分析を行っている。実証分析については、なお精緻な分析手法による分析が必要と判断されるために、継続中である。 なお、本研究の理論的分析については、『一橋論叢』(1995年5月号)に論文として掲載される予定である。
|