核力の近距離の非摂動的振る舞いを調べるためには核子の内部構造、つまりクォークの自由度を考慮しなくてはならない。クォークは摂動論的量子色力学から解るとおり、非常に近距離の相互作用としては漸近的自由性を持つので、核子の大きさ程度の袋(バッグ)を考えてその内部では自由粒子として取り扱うこととする。一方、バッグの外側ではクォークは非常に強く相関し直接的に取り扱うことは難しい。よって、その励起状態としての対生成が、パイ中間子などとして現れることから、その中間子を記述するnon-linear-σ模型を用いて扱うことにする。二つの核子の間の相互作用は、この中間子の雲におおわれた二つのバッグの系のエネルギーを計算し、その変化を見ることで、近似的に記述できる。そのためにバッグの内側のクォーク場と外側の中間子場を同時に解かなければならないが、定量的な議論のためにはクォーク場の真空偏極の効果、つまり、Diracの海の効果を考慮する必要がある。このために非常に多くのクォークのレベルの波動関数とエネルギー固有値を計算し、それを足しあげる操作が必要になる。本来この足し上げは無限大まで行う必要があるが、今回はカットオフを入れて有限の足し上げで近似することを考えた。クォークのレベルの計算においてはクォークが自由ディラック粒子であることを仮定して、その規定で展開し対角化を行った。中間子場の方は有限要素法に似た方法を用い数値的に解を求めることにした。 この計算によって核子間の相互作用をより定量的に議論できるが、一方真空偏極の効果を考慮しない場合よりも数値的不安定性が大きくなる。これは一つに考慮したレベルの数が少ないことが影響していると考えられる。
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