本研究は10Kで通常金属相から反強磁性的相へ相転移する有機伝導体α-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4において、この相転移を熱力学的に検証するために比熱測定を行うことである。このため本年度は比熱測定を行うのに必要な大型単結晶の育成、高感度ボロメーターの試作とテストを行った。まず単結晶の育成は、電気的酸化法で行ったが、これまでよりも印加電流を少なくし、結晶をゆっくり成長させることで約5mgの大型単結晶を得ることができた。この方法は大きさだけでなく、単結晶の結晶性の向上にも有効であることが分かった。また、これらの結晶育成方法の改良の過程に於いてアニオンの硫黄原子をセレン原子に置換したα-(BEDT-TTF)_2KHg(SeCN)_4の単結晶を世界にさきがけて得ることができた。現在、この新物質の物性を低温強磁場中で測定している。 ボロメーターは基本的にヒーターと温度計からなる。ヒーターはマンガニン線をサファイア基板上に蒸着することにより作製し、この基板に最近アメリカのレイクシュア社により開発された微小薄膜温度計を張り付けてある。この温度計は磁場中でこれまでの抵抗温度計よりも磁気抵抗が小さいことが特徴であるが、それでも低温では補正が必要となるためにハイブリッドマッグネットにより28Tまでの磁場中でキャパシタンス温度計により磁場中温度較正をおこなった。現在、この試作したボロメーター自体の比熱を交流法により測定中で、今後、目的とするα-(BEDT-TTF)_2KHg(SCN)_4の比熱を測定する予定である。またボロメーター試作中にこのボロメーターが比熱測定のみならず熱伝導度測定にも利用可能であることがわかったので比熱測定とともに熱伝導度測定も行う予定である。
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