申請者は、シリコンMOS中の二次元電子における金属・絶縁体転移の研究を行ってきた。本年度の成果を以下に列記する。 1.高移動度試料を用いて、電子濃度と対角およびホール伝導率との関係を測定した。不規則性を表す無次元パラメータω_cτを導入することによってKhmelnitskiiとLaughlinが提唱した、非局在状態バンドの浮上のモデルと良く比較することができた。 2.金属状態と絶縁体状態の相境界の振る舞いも、スピン分離や谷分離の増強効果を考慮することにより、上記モデルにより良く説明できた。このことより、絶縁体領域での巨大磁気抵抗の原因が、従来まで考えられていた電子のウィグナー結晶化ではなくて、アンダーソン局在に対する電子間相互作用の摂動的効果によるものであることが明らかになった。(1.と2.は研究発表参照)。 3.今月の2月に低移動度試料に対しても、同様の測定を行った。金属・絶縁体転移が起こる電子濃度は高移動度試料の場合に比べて50%程度高くなるものの、ω_cτとランダウ充填率の関数としての対角伝導率とホール伝導率の振る舞いは高移動度試料の場合と非常に近いものであった。この結果は、シリコンMOS中の二次元電子における金属・絶縁体転移に対する我々の解釈の正当性をより確かなものにした。(現在、投稿論文準備中) 4.電子が存在する二次元平面の垂線と磁場との角度を0度から約60度にした場合に、絶縁体領域での巨大磁気抵抗の振る舞いが劇的に変化することが観測された。この横磁場依存性が、今後の大きな課題となる。
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