(1)系の幾何学的位相が、本質的に重要な役割を果たす系として量子ホールがある。この系の標準的モデルである、格子上での強結合電子系(ブロッホ電子)に対して、今回の奨励研究により、解析的な厳密解を発見することに成功した。具体的に述べると、系のハミルトニアンが特定の磁気的運動量の点においては、通常考えられているより高い対称性である、量子群U_q(sl_2)で支配されていることを用いU_q(sl_2)のサイクリック表現の多項式表示を使い、いわゆるベ-テ方程式を導びく。そこで我々は、ある種の関数方程式を用い、そのあらわな解を発見した。さらにその解析的な解を用い格子あたりの磁束が非常に小さい場合、またその値が無理数である場合等について、解析的にその極限を取り扱い、物理的観測量を解析的に得た。更に解析的な解が得られない場合に対しても量子群U_q(sl_2)、ベ-テ方程式等に対する数値的手法により研究を更に進めた。 (2)また幾何学的位相は、(1)で我々が議論したような場合には、ある意味で新しい代数的構造である、量子群、及びその直交多項式による表現とも関連が深いと考えられるが、この直交多項式によりいくつかの解析的結果の予想されているランダム行列の系についてもいくつかの研究を行い、主に数値的な研究を行った。 (3)幾何学的位相が重要な系として以前から、私が研究を行ってきたエッジを持った量子ホール系があるが、その系での議論を用い、質量を持つ2次元ディラック電子の量子ホール効果に対して研究を行った。その結果、質量の小さな発見しやすいディラック電子のみならず、非常に質量の大きな、いわゆる隠れたディラック電子の存在が、系の量子ホール伝導度の量子化のためには、必須であることを示した。具体的には、エッジ状態がバルクの状態と縮退するときには、具体的な分散関係によらず、ディラック電子がその運動量近傍に存在存在することになるのである。
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