本研究の目的は、非平衡状態にある散逸結合系の理論的研究を通して、疑縮系における動的過程を明らかにすることである。具体的には、光と物質が相互作用し、かつエネルギーの流れを内包する系に対する定式化を行い、厳密解を得た。従来、この系に対しては、かなりの近似的な扱いを余儀なくされ、これまで厳密解を得ることは不可能であると思われていた。本研究は、このような系に対して、初めて解析解を得たものである。得られた解は、特殊例としてミクロなレーザー模型をも含んでおり、非平衡量子開放系の原型を解いたと言ってよかろう。 さらに、我々の方法論は光子系が複数個の原子系と結合している場合に拡張しても厳密な定式化が可能である。その結果、レーザー作用の本質的現象(光子を媒体とした活性原子間の共同現象)を追うことができた。すなわち、ある原子から放出された光が別の原子に吸収されることにより、原子間に光子を媒体とした結合が生ずる。これと共に原子系全体の位相が揃い、放出される光も位相の安定した、コヒーレントなものとなる、という直観的抽像を裏付ける振る舞いを得た。これまで量子多体系に起因する困難から、このシナリオを逐行した仕事は存在しなかったが、本研究により初めてレーザー系における位相の自己組織化過程を詳細に論ずることが可能となった。目下、3原子系まで拡張し、数値精度の限界を見据えつつ数値計算を行っている。
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