本研究の目的は年輪の放射性炭素(14C)の濃度変動を利用した年代測定法を確立し、その手法を火山堆積物中の埋没樹木に適用し、古文書の記録のない噴火の年代決定を行うことにある。本年度はその手法を確立するために、古文書の記録から年代のわかっている浅間山天明の噴火(1783年)の岩なだれ堆積物から見つかった樹木サンプルを用いてその有効性を検証した。14C濃度の測定は名古屋大学年代測定資料研究センターのタンデトロン加速器質量分析計を用いて行った。結果として古文書の年代と一致する結果が得られたものの重大な問題点が明きらかとなった。それは14C年代決定のための標準曲線として利用したアリゾナ大学のStuiverらによって作成されたものと、浅間山のサンプルとの間に14C濃度の変動に系統的なずれが見いだされたことである。Stuiverらが標準曲線作成に利用した樹木サンプルは北米で生育したものであり、日本のサンプルとの地域的な違いにより14C濃度に違いが表れたものと推定できる。今後より精度の高い年代決定を行う上では、日本産の樹木サンプルを用いて標準曲線を新たに作成する必要があろう。また第二世代タンデトロン加速器質量分析計の導入、あるいは液体シンチレーションカウンターの利用によりさらに測定の精度をあげる必要があろう。 本年度はさらに箱根芦ノ湖周辺で発見された埋没樹木の調査・採集を神奈川県博物館の協力を得て行った。
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