我々は1989年よりMUレーダーを用いた電離圏E領域FAI(Field-Aligned Irregularity)の高レンジ・時間分解能観測を開始し、磁気赤道域及び極域のみならず中緯度域においても従来想像されていたよりもはるかに活発・多彩な現象が存在することを明らかにしてきた。我々が初めて明らかにした現象として、主に夏季の夜間、100km以上の高度に現われてエコー強度が周期5〜10分程度で変動する、いわゆる「準周期エコー」がある。この現象の解釈として、申請者らはWoodman博士やTsunoda氏らと共同で、中性大気中の短周期の大気重力波によるスポラディックE(Es)層の変形によるとするモデルを提唱している。 本研究では、主に1993年及び1994年の夏季に実施されたMUレーダー観測データと、1993年5月〜7月に行われた可搬型VHFレーダー観測データを下に、FAI現象と背景電離圏の関連を明らかにし、準周期エコーの動的な空間構造を明らかにしてきた。 1.データの連続性が優れている可搬型VHFレーダーの観測データを信楽MU観測所のアイオノゾンデによるEs層の観測データと比較する事によって、FAIとEs層の発生頻度の日々変動と、発生高度の日変化が非常に良く一致する事を見出した。 2.MUレーダーの多ビーム観測から、FAIエコーのドップラー速度を地磁気直交2成分に分解した。1993〜1994年データの統計解析から、FAIエコーのドップラー速度の時間変化が電離圏F領域のドリフト速度に近いことが明らかとされた。 3.1993年5月から7月にかけて行われたMUレーダーと可搬型VHFレーダーの同時観測データを更に詳しく解析した。シートモデルの導入によって準周期エコーの空間形状の理解が進み、通常とは形態の異なるエコーに対するシート配置を明らかにした。また強い準周期エコーの示すドリフト速度が、同時観測で観測されたエコー領域の水平方向の位相線に沿う様子が明らかにされた。
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