研究概要 |
本研究では,奄美大島,喜界島,北大東島において化石陸貝および現生陸貝の採取を行い,その分類,形態解析,遺伝的解析をおこなった.化石は海岸や段丘上の砂丘や石灰岩の割れ目,鍾乳洞の堆積物から産出した.炭素同位体法によって,各サンプルごとに時代決定を行った結果,これらの化石は更新世末期(2〜3万年前)から完新世(1万年以降)にかけてのものであることが明らかになった.島ごとに時代別の陸貝の種数,絶滅率,移入率をもとめたところ,特に喜界島で更新世終末期に著しい種の絶滅(63%)が認められた.また島から絶滅した種の現在の分布域を調べたところ.この絶滅種は多くが現在琉球列島よりも寒冷な地域(九州以北)に分布していることがわかった.従って完新世以降の温暖化がこの絶滅の要因のひとつと考えられた.また琉球列島の各島に分布する現生の陸貝の種数と島の面積に,べき乗の関係が認められ,かつ最終氷期の海面温度から推定された当時の面積と当時の種数が,この関係によく対応したことから,この絶滅には海面上昇に伴う島の面積の減少も大きくかかわっていたと考えられる. 次に,殻の10形質の計測値と,主成分分析に基づく形態解析の結果,喜界島における3種,北大東島における1種の陸貝で,最終氷期以降の体サイズの減少および幼形進化が,共通して認められた.遺伝的な解析の結果から,これらの種は各島ごとに隔離されており,島の中でそれぞれ独自の進化を遂げたものと考えられた.このように本研究により最終氷期以降の気候変化が,群集組成や表現型の著しい変化をもたらしたことが推定された.
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