薩摩硫黄島で採取した高温の火山ガスの分析結果から、水素ガスと水蒸気の比率と温度の関係について検討してみると世界各地の高温ガスの傾向とほぼ一致した。硫黄を含む酸化還元反応と炭素を含む酸化還元反応を考えた場合、両者とも水素ガスと水蒸気の比率に対し影響を及ぼす。しかし一般的に硫黄の濃度が炭素の濃度に比べ高いので火山ガスの酸化還元状態は硫黄を含む酸化還元反応によって支配されていると考えられる。硫黄を含む酸化還元反応を内部反応であると仮定して温度の変化にともないどのような水素ガスと水蒸気の比率を示すか計算したところ薩摩硫黄島以外のガスの比率とよく一致した。このことは火山ガスの示す水素ガスと水蒸気の比率と温度の関係が、これまで考えられてきたように火山ガスの流路に存在する岩石によって緩衝作用を受けているのではなく、主にガスの内部反応が酸化還元状態を決定していることが明らかとなった。世界各地の高温ガスについて内部反応を仮定して1000℃で酸素分圧を計算するとほぼ10^<-10.65>barの周辺に分布した。ばらつきは10^<±0.5>barの範囲に収まった。この結果は鉄チタン鉱物の化学組成から推定されてきた酸素分圧の推定とは一致しない。雲仙普賢岳の火山ガスと溶岩について検討してみると鉄チタン鉱物による酸素分圧の推定値は火山ガスの推定値よりも約10倍高い。この差は化学分析の誤差をはるかに越えているので普賢岳の溶岩はガスと平衡に在った後でなんらかの酸化過程を経ていると思われる。地表噴出後の単なる空気酸化ではなく溶岩に含まれていた水が部分的に水素の形で脱ガスしたために余分の酸素が取り残され溶岩の組成を酸化的にした可能性が強い。
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