アルミニウムカ-バイトラジカル(AlC)では、5種類もの二重項電子励起状態(a〜e)が、X^4Σ^-基底状態とその約18000cm^<-1>上に存在するA^4Π状態との間の低エネルギー領域に存在しているものと予想されており、それら二重項状態の情報を実験的に把握する事は、このラジカルの性質を理解する上で重要である。そこで、アルミニウムカ-バイトラジカルの二重項電子励起状態を分光学的に検出し、それらの状態の正確な情報を得る事を目的として、d^2Π-a^2Πおよびe^2Π-a^2Πシステムの吸収スペクトルの観測を試みた。しかしながら、現在までのところ、アルミニウムカ-バイドラジカルのものと思われるスペクトルの観測には成功していない。 アルミニウムカ-バイトラジカルの生成には、AlとAl_4C_3の混合物を用いて作った電極をラジカル源として、不活性ガス中で放電する方法を用いた。この方法は、BrazierがこのラジカルのB-X発光スペクトルの観測に成功した方法であるが、今回の実験では、装置の都合上放電の条件が異なる点と、遷移の始状態がa準安定状態であるという点を考慮すると、生成法が適切であったかどうかは不明である。d^2Π-a^2Πおよびe^2Π-a^2Πシステムの観測は、ab initio計算の予想にもとづき、それぞれ1.3μmと1.5μmの波長域で試みた。1.3μm領域の測定では、新たに200cm^<-1>以上の連続スペクトルの観測が可能な外部共振器型チューナブル半導体レーザーを光源に用いた分光計を整備し使用したが、測定範囲が十分であったは言えない。ただ測定に用いたレーザーが、故障により長い期間使用不可能な状態であったため、生成法や測定条件の検討などを含め、十分な実験を行なえなかった事は残念である。現在、生成法と測定条件の検討を行う一方、新たな外部共振器型チューナブル半導体レーザーを導入し、さらに広い範囲の測定を行う計画である。
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