研究概要 |
不斉官能基と錯体の分子不斉の相乗効果・協同効果を利用した新しく誘起された不斉機能を発現するために、2.2'-ビビリジン(bpy)に(1R,2S,5R)-(-)ーメンチル基を導入したキラル配位子(Menbpy)を合成した。このMenbpyの構造をNMR及びCDスペクトルにより決定した。Menbpyと三塩化ルテニウムから新規キラルルテニウム錯体([Ru(Menbpy)_3]^<2+>)を合成し、カラムクロマトグラフィーで精製し、分子不斉に関する光学異性体は展開溶媒を変えて光学分割し、CDスペクトルからΔΔ体のΔ-[Ru(Menbpy)_3]^<2+>を単離した。得られた不斉官能基と分子不斉を有する新規キラルルテニウム錯体(Δ-[Ru(Menbpy)_3]^<2+>)の励起状態寿命は1550nsであり、励起状態酸化還元電位は-0.45V(vs SCE)であった。このΔ-[Ru(Menbpy)_3]^<2+>の分子認識機能の評価として、らせん性分子不斉(ΔあるいはΔ)を有するトリスアセチルアセトナトコバルト(III)([Co(acac)_3])のエナンチオ選択光還元反応を脱気下エタノール/水混合溶媒中で行ったところ、Δ-[Co(acac)_3]を優先的に還元し、エタノールの含有率の増加に従い反応速度は低下するのに対し、立体選択性は増加し、エタノール90vol%において最高k^Δ/k^Δ=14.7倍の立体選択性であった。この光反応はいくつかの素反応過程から成り立っており、光励起ルテニウム錯体とコバルト錯体の出会い錯体形成過程での選択性は小さく出会い錯体から生成物への解離過程や生成系からの逆電子移動過程で大きく発現することが判明した。そのことは光励起状態の酸素による酸化的消光により生成した三価の状態のΔ-[Ru(Menbpy)_3]^<3+>と還元生成物であるコバルト(II)錯体を基質としたコバルト(III)錯体の不斉合成反応を行ったところ、A-[Co(acac)_3]が優先的に生成し、エタノール50vol%中37%e.e.と言う高い不斉収率が得られ、この選択性は光還元反応と逆であり、分解反応と不斉合成反応の相乗効果により選択性が増殖されていることが明らかとなった。
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