カルボチオンによる多段階酸化還元系の構築ならびに立体配座解析へ応用を踏まえたカルボチオンの超安定化の目的に対し、安定化の基本ユニットとして炭化水素であるにも関わらず分極の効果が相当程度に大きいアズレン環を利用することに着目した。その結果、三枚のアズレン環を組み合わせることで相当程度に高い安定化が可能となることが明らかになった。さらに立体的かつ電子的な安定化が期待できるtert-ブチル基をアズレン環に導入することにより、これまでのカルボカチオン類にない極めて高い安定化の効果が得られることが明らかとなった。また電子的な高い安定化が期待できるジメチルアミノ基、ヒドロキシル基、およびメトキシ基等を導入したアズレニルメチカチオン類を系統的に合成したことにより、さらに高い安定性を有するカルボカチオン類の生成が可能となった。さらにアズレン環に代わり得る骨格の検索としてアズレンの異性体であるナフタレン環、酸化還元的挙動を含むフェロセン環ならびにチオフェン環等を導入した新たなアズレニルメチルカチオン類を合成しその特異な性質を明らかにした。また、この様にして生成した超安定化カルボカチオン自身が高い安定性を示すのみならず、安定化に伴いカチオンの還元とアズレン環の酸化を同時に示す特異な酸化還元的挙動を示す、多段階酸化還元系としての性質を合わせ持つことが明らかとなった。また、得られたカルボカチオン類の配座異性機構を温度可変NMRスペクトルにより詳細に検討した結果、超安定化されたカルボカチオン類を用いることにより、これまで定説となっていた分子プロペラの配座異性機構(two-ring flip機構)に対して、全く新たなone-ring flip機構の解明を可能にした。
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