研究概要 |
MO^<II>,W^<II>に代表されるd^4系の金属イオンは,Ptと同様,多様な有機系架橋配位子が架橋したランタン型二核錯体が数多く知られている.これらの錯体の金属間には4重結合が存在し,架橋配位子のbite distanceが大きく変わってもPtの場合ほど金属間結合距離は大きく変化しない.我々は,架橋配位子の金属間相互作用に与える影響に興味を持ち,金属間に結合を持たないかあるいは単結合を有するPtについて,架橋配位子としての金属酸化物イオンや金属硫化物イオンとの反応を試みている.本研究では,金属間に多重結合を持つランタン型二核モリブデン錯体と金属硫化物イオンとの反応を試みた.出発原料に[Mo_2(PhCOO)_4]を用いた場合,WS_4^<2->と2つの架橋配位子(PhCOO^-)が置換して[Mo_2(PhCOO)_4(WS_4)_2]^<2->を生成することがStiefelらにより報告されているが,本研究で同様の反応を追跡したところ,異なる生成物[MoO(WS_4)_2]^<2->を得た.そこで,その混合金属三核錯体の構造並びに諸性質を詳細に調べた. 合成はStiefelらの方法を参考に,アルゴン下で[Mo_2(PhCOO)_4]のアセトン溶液に(Pr_4N)_2WS_4のアセトン溶液を加え,一晩撹拌した.真空下で濃縮した後,吸引濾過,エーテルで洗浄し乾燥した.CH_3CN/Et_2Oから再結晶して黄色の(Pr_4N)_2[MoO(WS_4)_2]の結晶を得た.収率23%. X線構造解析から得られた錯陰イオン[MoO(WS_4)_2]^<2->のORTEP図を左図に示す(結晶データ:(Pr_4N)_2[MoO(WS_4)_2],単斜晶系,空間群P2_1/c,a=15.436(2),b=17.563(3),c=14.932(2)Å,β=96.79(1),V=1513.4(4)Å^3,Z=4,R=0.046).この錯体は,中心のMoにWS_4^<2->が2つとオキソイオンが1つ配位した構造を持つ.Moのまわりの4つのS原子がつくる配位平面の中心に結晶学的な対称心が存在し,中心の金属原子のMoとターミナルのオキソは1/2の多重度でdisorderしている.4つの架橋S原子がつくる面に対してMoは0.559Å浮き上がった構造をしている.また,Mo-W間距離は3.077(2)Åで,金属間に直接の結合はない.また,ESCA測定の結果は,W4f_<7/2>=33.3eV,Mo3d_<5/2>=230.3eV(CIS=285.0eV)であり,それぞれ(NH_4)_2WS_4(W4f_<7/2>=33.7eV),(NH_4)_2MoS_4(Mo3d_<5/2>=229.9eV)に近い結合エネルギーになっている.
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