研究概要 |
伊豆-小笠原-マリアナ島弧の岩礁生物の種多様性の研究の一環として同島弧系の最北にあたる伊豆諸島の利島、鵜渡根島、新島、神津島、祇苗島、三宅島、で調査をおこない、これまでの筆者のマリアナ諸島、小笠原諸島、南伊豆諸島(青ヶ島、八丈島、八丈小島)の研究とあわせて同島弧3,000kmの種構成と種多様性と生物地理的特性の、全容を明らかにした。調査は大潮の千潮時に、岩礁潮間帯の岩盤にトランゼクトを複数設置し、コドラートの中の生物の密度、被度を調べた。タイドプールの生物は、その場所の高さを測定し定量的に採集し同定した。1つの島で最低、10本のトランゼクト、10コのタイドプールを調査した。また定性的採集やSCUBAダイビングによる採集もあわせておこない、今回特に重視して採集したのは、軟体動物と、甲殻類のフジツボ類とヤドカリ類であった。 その結果、従来伊豆諸島はひとつの生物地理的単位と考えられてきたが、南伊豆諸島(青ヶ島〜三宅島)と北伊豆諸島(神津島〜大島)では生物相が大きく異なり、前者は熱帯火山島特有の種類が多くミクロネシアとの共通種も発見され種多様性が著しく高いが、後者は日本温暖帯域の種類が多く亜熱帯性種がわずかに認められる。そしてその生物地理区の境界が神津島と三宅島の間にあることが明かであった。その要因として考えられるのは黒潮の影響の違いと、それにともなう幼生の分散、ならびに海洋気候の違いであると推察された。しかし北伊豆諸島では詳細に見てみると、神津島から利島の間までは多数の有人あるいは無人の島々が点在し、それらで見いだされる生物は島間の距離と関係なく様々な形で異なっており、局所的には島の岩礁を構成する岩の性質の違いに由来するものと推察された。この点については地学的研究とあわせての研究が必要である。
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