脊椎動物の精子形成の調節機構を明らかにする上で、ウナギは、唯一、in vitro系で精子形成を完全に再現できる動物である。 私たちの研究室では、この系を用いて、生殖腺刺激ホルモン(GTH)により精子形成誘起ホルモンである11-ketotestosterone(11-KT)の産生が起こり、精子形成が開始することを明らかにしてきた。申請者は、この過程で、ステロイド代謝酵素である3β-HSDの活性化によって、11-KTの著しい産生が引き起こされることを、ステロイド代謝実験によって、明らかにしてきた。本研究では、このGTHによる11-KTの産生を誘起する3β-HSDの活性化の分子機構を解明することを目的として行われた。その結果、 1)ウナギの3β-HSD cDNAをプローブとして、ノーザン解析を行ったところ、GTH投与後、3日で、発現量の増大が認められた。 2)cDNAの配列から予想されるアミノ酸配列を基に、二種類のオリゴペプチドを作製し、これを抗原として、ポリクローナル抗体を作製した。これらを用いて、ウェスタン解析を行った結果、0日でも、3β-HSD蛋白の存在が認められるが、GTH投与後、1、3日で著しい増加が認められた。 3)上述の抗体を用いて、免疫組織化学を行ったところ、ウナギの精巣組織では、間質部位に存在する電顕的にステロイド産生細胞と確認されるライディヒ細胞が、特異的に免疫染色された。また、今回得られた抗体は、ウナギ以外の魚類(ニジマス・ティラピア・ベラ等)、マウス・ウサギ・ニワトリ・アフリカツメガエルにおいても、交叉が、ウェスタン・免疫組織化学レベルで認められた。 以上のことから、ウナギの精子形成誘起ホルモンである11-KTの産生は、精巣内の3β-HSDの転写・翻訳の促進によって引き起こされることが、明らかとなった。
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