本研究は、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)素子の特性向上を目的に、薄膜作製のプロセス技術としてイオン化蒸着法に着目し、その膜質の向上からEL素子の問題点解決へのアプローチを試みたものである。 陽極ITO上にホール輸送層のポリビニルカルバゾール(PVCz)(スピンコート法、60nm)、次に発光層の8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)をイオン化蒸着法により50nm積層した。陰極はMgである(真空蒸着)。 Alqのイオン化蒸着単一層膜では、300V程度のイオン加速電圧条件で不純物酸素の減少に伴う蛍光強度の増加が確認されている。しかし積層構造においては下地層に与える影響(幅射熱、イオン照射)を考慮した上で、イオン化蒸着がEL特性に及ぼす効果を調べる必要がある。そこで発光層Alqの部分を、PVCz層上にまず真空蒸着で膜厚34nm、次にイオン化蒸着で17nmの順で成膜すると下のようなEL特性の改善が確認された(2段蒸着法)。 1.イオン加速電圧50Vの場合、真空蒸着のみに比べ、発光輝度が約1.5倍、発光効率が約2倍に向上した。 2.発光開始電圧も、10V(真空蒸着のみ)から、7.5V(2段蒸着、イオン加速電圧100V)まで改善できた。 さらにAlq蒸着源とMg蒸着源を真空槽内にもつ多源イオン化蒸着装置の作製を行い、EL素子を成膜した。Alq-Mg界面が大気に触れないことで不純物の混入が防がれ成膜できるため、真空蒸着の場合で5000cd/m^2、1.7lm/Wという高輝度、高効率が確認された。 以上のような結果から、イオン化蒸着法による膜質の改善がEL特性向上に有効であること、また装置の改造により、イオン化蒸着法を用いたさらなる改善が可能であることが確かめられた。
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