本年度は、結晶性高分子としてポリ(ε-カプラクトン)(PCL)、非晶性高分子としてスチレンオリゴマー(OS)を用い、両者のポリマーブレンドの結晶化ダイナミックスを主にバルス法NMRを用いて研究を行った。また光学顕微鏡により、結晶化中のモルフォロジー観察も行った。以下に今年度得られた知見を示す。 このブレンド系は上方臨界相溶温度(UCST)型の相図を持つことが知られている。PCLの分子量はM^^-_w=14600、M^^-_n=9300、OSの分子量はM^^-_w=1051、M^^-_n=930である。この場合について、バイノ-ダル曲線、スビノ-ダル曲線を求めた。 このブレンドに関して、PCLの融点降下曲線を求めた。これはバイノ-ダル曲線の外側の1相領域において、各組成の平衡融点を求めることにより行った。 このブレンド系について、結晶化過程の実時間パルス法NMR測定を行った。まず融点以上の温度で十分溶融させた後、結晶化温度に設定したNMRプロープにサンプル管を挿入し、主にスピン-スピン緩和時間T_2の時間変化を測定した。この結果は大きく分けて二つの場合に分類することができる。結晶化に誘発されて球晶成長面で相分離が起こる場合と、相分離してから結晶化が起こる場合である。後者の場合には、相分離したOSリッチ相の分子運動性が低いため、結晶化開始前から結晶相とほぼ同じ分子運動性を持つ相が検出された。またどちらの場合でも、結晶化温度が高くなると界面相と思われる成分の成分比が結晶化が開始する付近で減少し、その後再び増加する結果が得られた。これは、メルトの状態では相溶していたブレンドで結晶化が起こると非晶性物質であるOSが結晶排除され、結晶ラメラ間に取り残されたと考えることで説明できる。この効果は結晶化温度が下がるに従い小さくなった。また光学顕微鏡観察結果を用いてNMRの測定結果との整合性を考察し、良い一致を見せた。
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