次世代半導体光デバイスの有望材料の一つである希土類元素添加III-V族化合物半導体を取り上げ、そのデバイス化に不可欠な要素技術として、希土類元素を「任意の格子サイト」に「精密配置」できる原子層ド-ピング技術を確立すること、すなわち構造敏感な発光中心の局所構造を人為的に完全制御することを第一の目的とした。その際、希土類元素として、2〜3μm領域に発光準位を有するDy(ジスプロシウム)を取り扱う前段階として、比較的良く研究され物性が明らかになりつつあるEr(エルビウム)を取り上げ、成長装置の性能を含めた基礎的知見の収集に努めた。 ●InP:Erの成長と評価に関して: [膜中Er濃度]SIMS測定により明らかにされた膜中Er濃度の深さ方向分布は優れた均一性を示した。また、そのEr濃度はEr原料温度と、Er原料を通過する水素流量により再現性良く制御可能であった。 [表面モフォロジー]Er濃度の増加とともに、表面モフォロジーが劣化した。また、Er濃度6x10^<18>cm^<-3>以上では多結晶成長を示した。 [電気的特性]電子密度はEr濃度にほとんど依存しなかった。一方、移動度はEr添加により激減した。このことは、ErはInP中で中性不純物として振舞うことを示唆している。 [光学的特性]Erの関与したPLスペクトルは、主に3つの発光線により構成され、それらの相対強度はEr濃度に強く依存した。このことは、ErがInP中で複数の発光中心を形成することを示唆している。また、成長温度を580℃から50℃下げることにより、発光強度は1桁程度増大した。 ●GaP:Erの成長と評価に関して: [表面モフォロジー]Er原料を通過する水素流量を増加させることにより、表面モフォロジーが劣化した。単結晶成長から多結晶成長に変わる水素流量はInP:Erに比べて小さかった。 [光学的特性]Erの関与した発光のスペクトル形状は濃度に強く依存し、その振舞いはInP:Erで得られたものと同様であった。
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