生体内情報処理機構の重要な一つである免疫系に関しては近年医学・生理学的研究が飛躍的に進み、次第にその機能原理が明らかになりつつある。それによると、免疫系はウィルス等の抗原を排除する様々な種類の抗体間で密接に連絡を取り合ってネットワークを形成し、システムレベルで機能していることがわかってきた。また免疫系は同時に免疫寛容、免疫記憶、学習機能といった工学的見地から眺めても非常に興味深い機能も併せて有している。しかしながら、免疫系は、他の生体内情報処理機構である脳神経系、遺伝系に比べて工学的見地からの研究は皆無に等しく、その機能の工学的模擬ならびに応用は新たな自律分散情報処理機構の構築に有用であると考えられる。 そこで本研究では、自律分散制御の適切な問題である多脚歩行ロボットの歩容(歩行パターン)獲得を例にとり、免疫学的見地からのアプローチを試みた。平成6年度の研究では、免疫系の有する重要な機能の一つである『自己・非自己の識別機能』に着目した手法の開発を行った。具体的には、歩行ロボットの各脚にコントローラを用意し、これを抗体を見なし、これらを結合することにより免疫ネットワークを構成する。ここで各コントローラの状態変数を抗体の濃度に対応させる。ロボットが転倒することなく歩行できる適切な歩行パターンを阻害する脚運動をウィルスに冒された非自己の脚と考え、このような脚を上述の免疫ネットワークを用いて検出・排除を繰り返すことにより、任意の脚状態から適切な歩容を獲得することが可能となった。 今後の課題としては、環境に応じた様々な歩容の実現ならびに抗原の存在を陽に用いた免疫ネットワークの工学的実現が挙げられる。現在これらの問題を解決する新しい免疫ネットワークの構築を行っている。
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