研究概要 |
下水道関連施設で見られるような嫌気性細菌の関与がなくとも,好気的な条件下においてコンクリートの微生物劣化が生ずることをこれまでに硫黄関連細菌により明らかとしてきた。その劣化因子が細菌の呼吸作用によって排出される炭酸ならびに細菌の代謝産物である有機酸であったことから,好気的環境下におけるコンクリートの微生物劣化が,硫黄関連細菌に限らず一般的な好気性微生物においても生ずることが予想される。そこで本研究では,好気性微生物の中で,一般細菌としてBacillus subtilis(枯草菌)ならびにEscherichia coli(大腸菌),糸上菌(カビ)としてPenicillium expansum(青カビの一種)ならびにAureobasidium pullulans(黒カビの一種)を用いて,これらの微生物が代謝する有機酸ならびに炭酸がコンクリート劣化に及ぼす影響について検討を行った。その結果,いずれの微生物を使用した劣化シミュレーション実験においても,供試体からカルシウムイオンの溶出が確認され,その濃度は硫黄関連細菌を用いた場合とほぼ等しいものであった。また,Bacillus subtilisではn-酪酸,Esherichia coliでは酢酸,Penicillium expansumではイソ吉草酸,Aureobasidium pullulansでは蟻酸が主な代謝産物として排出されており,これらの有機酸が供試体からのカルシウムイオンの溶出に寄与しているものと思われる。さらに,いずれの劣化シミュレーション実験においても,供試体表層部の炭酸化が進行していることが確認されるとともに,水酸化カルシウム量と炭酸カルシウム量の総和が経時的に増加する傾向にあり,水酸化カルシウムの炭酸化のみではなくカルシウムシリケート水和物等セメント水和物が炭酸化を受けていることがわかった。以上のことから,硫黄関連細菌に限らず好気性微生物の代謝産物である有機酸ならびに炭酸により,コンクリートに劣化が生じることが明らかとなった。
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