脂質含有低濃度排水を処理している嫌気性ろ床の内部の細菌群分布について検討した結果、ろ材に付着したタンパク質分解細菌およびグルコース分解細菌の菌数は反応槽中部に浮遊したタンパク質分解細菌およびグルコース分解細菌の菌数とほぼ等しかった。しかし、脂質分解細菌については、酢酸資化性メタン生成細菌および水素資化性メタン生成細菌と同様に浮遊部分と比較してろ材充填部分が高い値を示したことから、ろ材充填はろ材充填部分へのメタン生成細菌および脂質分解細菌の集積に対して効果が大きいと考えられる。従って、脂質分解およびメタン生成段階が律速段階である場合には、ろ材を充填することで反応槽全体の除去率を向上させることができると考えられる。脂質含有排水の嫌気性分解の中間代謝産物である高級脂肪酸の主要成分の一つにパルミチン酸がある。このパルミチン酸による各細菌群の活性に対する阻害性は、濃度の増加につれて強くなり、阻害性の特徴としては、基質分解に要する時間が長くなること、あるいは、遅滞期が長くなることが挙げられる。セルロース、グルコース、酢酸、プロピオン酸およびゼラチン分解細菌群に対するMIC_<50>(単位菌体量当たりの基質分解活性が1/2に低下するときのパルミチン酸濃度)は、それぞれ2.06mM/g protein、4.23mM/g protein、12.8mM/g protein、78.8mM/g proteinおよび141mM/g protein以上であったことから、これらの異なった細菌群に対する高級脂肪酸の阻害性の強い順は、セルロース>グルコース>酢酸>プロピオン酸>ゼラチンである。このため脂質と共にその中間代謝産物である高級脂肪酸による阻害性の強いセルロース等を含有している排水を処理する場合には処理方法を検討する必要がある。各細菌群の疎水性相互作用力と高級脂肪酸による阻害性との関係について検討した結果、疎水性割合の小さい細菌群は疎水性割合の大きい細菌群と比較して、高級脂肪酸の阻害性が弱いことが明らかになった。
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