本年度は、近年の経済改革が都市居住者の住宅保障に与えた影響、住宅金融の整備、住宅保障等について、住宅問題が深刻な上海市の事例を中心に考察した。 上海市では多くの不良住宅密集地域が商業利用価値の高い幹線道路沿線に存在していた。これらの高密居住区は、中層化してもその地区の居住環境改善は困難とされ、地区再開発は手つかずであった。しかし近年、区政府が外資等を導入し、こうした高密居住区を商業地区に再開発することが行われた。当該区の住民は再開発事業の利潤で建設された都市近郊団地に移転させられた。立ち退きに際し、老朽化した不良住宅には家屋所有権の補償を行わず、公共賃貸住宅への入居斡旋、若干の補償をし、土地については都市部の土地は国有であるため補償の必要はない。こうした状況下で、経済改革後の都市部の地価高騰によって住民への移転補償が充分まかなえるようになったことから、再開発事業が促進された。 上海市では80年代に国内企業の住宅建設投資が増大し、都市の住宅ストックが著しく増加した。それによって居住水準は大幅に向上した。さらに90年代前半の商業利用を中心とした再開発が住宅水準の改善に一定の寄与をしたといえよう。 しかし90年代前半において、家賃と給与体系の見直し、住宅金融といったマクロな改革には大きな進展が見られず、今後が期待される。また今後とも郊外団地の開発が住宅供給の中心となろうが、比較的商業利用価値の低い既成市街地、とくに老朽化しつつある中層集合住宅地区の修復、住宅改善には多くの困難が予想される。
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