研究概要 |
本研究では,次の装置開発を行った。既設の低速陽電子ビームラインに,超高真空中で,試料温度を上昇させる装置を開発した。装置は二種類あり,(1)赤外線を試料の裏面へ照射するものと,(2)WヒーターをBNで絶縁し,試料裏面に装着した形状のものである。いずれも,試料前面から,陽電子ビームが入射し,試料温度を変化させながら,陽電子削減γ線ドップラー拡がりが測定できるようになっている。また,試料温度を上昇させた際,γ線を検出するための半導体検出器の表面温度が上昇しないよう,水冷装置をステンレス容器に組み込んだ。また,試料がGeの場合,1000℃以上では,試料表面からGeの蒸発が激しいことがわかったので,測定時間を短縮するため,半導体検出器と試料間の距離を出来るだけ短くし,計数率が高くなるように装置の構造を変更した。熱平衡実験に先立ち,Siの熱処理による,欠陥の導入過程を陽電子により研究した。この実験により,Cz-Siの温度を1000℃で数十時間維持すると,陽電子寿命が減少することがわかった。この試料について電子線照射により,空孔型欠陥を導入すると,酵素-空孔複合体が高濃度で形成されていることがわかった。その濃度は6x10^<16>cm^<-3>であった。このことから,1000℃付近の熱処理は,酸素のマイクロクラスターが導入される原因となることがわかった。ここで,マイクロクラスターのサイズは,特定できていないが,電子顕微鏡の検出限界以下のサイズである。この結果は,高温熱平衡実験の結果の解釈に有意な指標をあたえるものである。ヒーターを組み込んだ低速陽電子ビームラインで,試料の温度を上昇させた結果,温度の不均一性があり,安定な測定は難しいことがわかった。これは,試料ホルダーの改良により,克服されると考えられ,制作中である。
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