等原子比Ti-Ni金属間化合物は室温付近でマルテンサイト変態を起こすが、原子比が化学量論的組成から僅かにNiが過剰になることにより変態温度は急速に減少する。しかも、この組成での電気抵抗は通常の金属とは異なり、温度の冷却に伴い増加する。しかしながら、この電気抵抗異常の原因はいまのところ明らかにされていない。そこで、このような異常と変態温度との関連性について明らかにするため、おもに核磁気共鳴法を用いて、電子状態および原子の幾何学的環境変化について調べた。本研究では、核磁気共鳴が容易に行える核種であるCuを添加し、さらに、十分強い共鳴が得られるように添加量を10%とした。試料は、(a)Ti_<50>Ni_<40>Cu_<10>、(b)Ti_<45>Ni_<45>Cu_<10>、および、(c)Ti_<50>Ni_<40>Cu_<10>の3種類を作製したが、(a)は変態温度が高いため電気抵抗異常が見られなかった。また、(c)は電顕観察の結果、Ti_2(NiCu)_3の組成を持つ第2相が出現しており、NMRの測定には適さないことがわかった。(b)は第2相は出現していたが僅かであり、マトリックスの組成も名目上のそれと実験の誤差内で一致した。 まず、この試料の電気抵抗を測定した結果、Ti_<49>Ni_<51>やTi_<48>Ni_<52>と同様の電気抵抗異常が観察された。Cuを添加したものでも電気抵抗の異常が観察されたことから、この異常はTi-Niの特殊な条件下でのみ出現するものではなく、種々の元素を添加したものでも観察される可能性があることがわかった。さらにNMRの測定を行ったところ、Cuの吸収ピークは幅広く分布しており、温度に対する顕著な変化は観察されなかった。このため、電気抵抗異常の原因が原子レベルで解明されるには至らなかった。吸収ピークが幅広く分布した原因として、TiサイトとNiサイトにCu原子が多数入ったためにCu-Cu対ができ、そのためCu原子に強い電場勾配が生じたためと考えられる。
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