本研究ではゼオライト細孔内に遷移金属化合物クラスターを導入し、結晶構造や磁気構造について、X線・中性子構造解析及び高分解能電子顕微鏡法を用いて明らかにし、磁気的性質との関連を調べることを目的としている。本年度における成果は以下の三項目に要約される。 1.粉末X線構造解析と磁化測定 Niをイオン交換により導入したLTA型ゼオライト(Ni-LTA)は低温でスピングラス的振る舞いを示す。このNi-LTAの粉末X線構造解析を行い、細孔内のNi及び水分子の位置を明らかにした。その結果からNiの周囲には六個の酸素原子が近接して存在することがわかった。このことから、Niが細孔内において水溶液中に類似した六水和錯イオンを形成している可能性が高いことが明らかになった。このことはNi-LTAの光吸収スペクトルがNi(OH)_2水溶液のそれに極めて類似していることからも裏付けられた。また、FAU型ゼオライトについて同様な現象が現れることを見いだした。 2.粉末中性子構造解析 重水中でイオン交換処理を行ったNi-LTAについて、低温での磁気構造を解明することを目的として粉末中性子構造解析を行い細孔内イオンの位置を明らかにした。しかしながら細孔中の過剰の重水による散乱と考えられるバックグランドが非常に高く、低温での磁気散乱の寄与を検出するには至らなかった。試料作成法、測定方法などの改善を計画中である。 3.高分解能電子顕微鏡観察 スロースキャンCCDカメラを用いて、有機分子を導入したMFI型ゼオライトの電子回折パターン及び高分解能像を撮影し、電子回折強度のフーリエ変換により構造解析を行った。このことから、今後磁性クラスターを導入した系においても電子回折の定量評価による局所構造解析が可能であることが示された。
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